1. 背景
諸事情によりTVを買い換えたため、色々とパラメータを変更して見た目がどう変わるかを確認している。その中で「バックライト分割制御」の設定はHDRコンテンツの表示品位に大きな影響を与えていたためメモを残すことにした。
2. 調査対象の TV
調査対象となるTVは SONY製 BRAVIA KJ-65X9500G である。購入理由は色が正確と評価されていたから(RTINGS.com にて Best TV For Color Accuracy として紹介されていた)。
3. 用語解説
このあと専門用語が出てくるので簡単にチョットだけ解説しておく。
3.1. Local Dimming
「黒の締まり」や「輝き」などを液晶パネルで表現する際に使われる技術。具体的には液晶のバックライトを複数のブロックに分割してブロック毎に制御する。以下の動画が分かりやすい(手前左側のTV)。
3.2. Blooming
Local Dimming の分割ブロック数の制約により、高輝度の表示対象の周りがボヤッと光ってしまう現象。以下の動画が分かりやすい。
3.3. コントラスト比
表現可能な明暗差の比率を意味する。
例えば表示デバイスAと表示デバイスBのスペックが以下だったとする。
- A: 0.01 cd/m2~1000 cd/m2 まで表現可能
- B: 0.5 cd/m2~500 cd/m2 まで表現可能
この場合、Aはコントラスト比 100,000:1、Bはコントラスト比 1,000:1 と表現できる。 なお、近年の表示デバイスは設定するパラメータに依ってコントラスト比は変化する。
4. 結論
- 「バックライト分割制御」設定では Local Dimming の効き具合を制御可能
- 個人的にコンテンツに応じてパラメータ調整できるのは有り難いと思った。知識のある人にとっては扱いやすい製品だと考える。
5. 調査方法
まず、図1のカラーパッチを作成した(ST2084, BT.2020, D65 想定)。このパッチは低輝度かつBT.709の色域内に収まるように調整したパッチである。また、静止画のパッチに加えて高輝度の動く玉(※1)を合成した動画も用意した。
※1 こういうのって一般的には何て言うんですかね? Reflective Moving Balls?
次に、図2の環境を構築してTV にカラーパッチおよび動く玉の動画を表示した。この状態で「バックライト分割制御」の設定を変更し画面の変化を調べた。なお、画面の記録には ミラーレス一眼カメラの α6500 を使用した。
6. 調査結果
静止画のカラーパッチを表示しつつ「バックライト分割制御」の設定を「切」→「弱」→「中」→「強」に変更した際の測定結果を図3~図6に示す。
概要 | 図 |
---|---|
図3. 「切」 | |
図4. 「弱」 | |
図5. 「中」 | |
図6. 「強」 |
また、動く玉の動画を表示しつつ「バックライト分割制御」の設定を「切」→「弱」→「中」→「強」に変更した際の測定結果を図7~図10に示す。
概要 | 図 |
---|---|
図7. 「切」 | |
図8. 「弱」 | |
図9. 「中」 | |
図10. 「強」 |
7. 考察
まず図3~図7 の右側の黒背景に注目する。「切」→「弱」→「中」の順に黒の輝度が下がっていくことが分かる。次に画面左側のパッチに注目すると、彩度が上がっていることが分かる。これはコントラスト比が上がり低輝度領域の表示性能が向上したからである。
このことから「バックライト分割制御」のパラメータを「切」→「中」に変えることで、HDRコンテンツの暗いシーンの表示性能が向上することが分かる。例えばドラマの暗いシーンでの役者さんの肌の見え方などが大きく変わる。
次に図7~図10 の高輝度の玉の周辺に注目する。「切」→「弱」→「中」の順に Blooming が視認しやすくなっていることが分かる。
このことから「バックライト分割制御」のパラメータを「中」→「切」に変えることで Blooming を抑制できることが分かる。例えばドラマの暗いシーンで字幕の周辺がボヤッと明るくなることが防げる。
以上よりコントラスト比と Blooming にはトレード・オフ関係があり、それを「バックライト分割制御」設定でコントロールできることが分かった。従ってコンテンツに合わせて最適なパラメータを設定すれば(ちょっと面倒だけど)良い視聴体験ができると考える。
なお余談だが「中」と「強」のパラメータの違いは今回の検証では分からなかった。
8. 感想
たった1機能を調べるのに随分と時間が掛かってしまった。もう少し効率よく作業ができるように努力したい。レビューサイトの中の人たちは本当に凄いな…。