toruのブログ

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ガンマ補正とノイズの均一化

目的

アナログ放送時代のガンマ補正はCRTの逆補正の為だけの存在ではなく、ノイズの均一化という役割もあったことを示す。

背景

Color Science に対する理解を深める上で「ガンマ補正」を正しく理解することは必要不可欠である。 幸いなことにガンマ補正に関する記事やスライドは数多く存在しており、誰しもが短期間で理解することが可能である。 国内の記事だとコンポジゴクさんの記事[1]で相当に詳しく書かれている。

多くの解説資料がある一方で気になっている点もある。 BBC の Whitepaper で言及されていたノイズの均一化[2] について解説している記事が全く見当たらないことである。 BBC の Whitepaper ではガンマ補正について以下のように述べている。

As a result of this non-linear visual response, in a linear TV system the same level of noise would be much more visible in dark regions of an image than in bright regions. In an analogue television system a non-linearity is required to make the subjective effect of noise uniform for regions with different brightness.

適当に訳すと以下となる。

ヒトの明るさに対する感覚は非線形である。その結果としてリニアなTV(ガンマ補正が不要なTV)では 信号のノイズが低階調側でより目立って見える。 アナログTVのシステムではノイズが階調に依らず均一に見えるようノンリニアな特性が必要である。

自分は初めてこの文書を読んだとき全く意味が分からなかった。また誰も解説記事を書いていなかった(アナログ時代の話なので誰も書かなかったと推測)。 結局、理解まで2年以上かかってしまったが内容を理解できたので自分で解説記事を書くことにした。

結論

  • ガンマ補正はアナログではノイズの均一化に役立つ
  • ガンマ補正が無い場合、低階調のノイズが増幅されて見えてしまう
  • ガンマ補正の有り・無しでの見え方の違いを表1に示す。
表1. ガンマ補正の有り・無しでの見え方の違い
ガンマ補正無し ガンマ補正あり
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オリジナル, 1920x1080, 16Bit TIFF
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オリジナル, 1920x1080, 16Bit TIFF

検証概要

以下に示す2つの環境を想定し、それぞれの世界で映像の伝送中にノイズが加わった場合、 最終的な表示にどのような影響が出るのかをシミュレーションする。

  1. 表示デバイスのガンマ特性が 1.0 でガンマ補正の存在しない世界
  2. 表示デバイスのガンマ特性が 2.4 でガンマ補正が存在する世界

検証方法

各環境のデータ処理フローを 図1, 図2 に示す。図2を例に各ブロックの処理を説明する。

  1. まず光(Linear Light)がカメラで撮影される(今回はテストパターンのEXRファイルで代用)
  2. 撮影された光はガンマ補正のかかったRGB信号となる
  3. RGB信号はYCbCr信号に変換されてカメラから送出され表示デバイスへと伝送される
  4. 伝送中にノイズが混入する
  5. 表示デバイスでYCbCr信号がRGB信号に戻される
  6. RGB信号にガンマ補正の逆補正がかけられる
  7. 光(Linear Light)として表示デバイスから出力される

※アナログなのに YCbCr なの?等の細かい不整合については勘弁して下さい…。

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図1. ガンマ特性が 1.0 の場合の処理
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図2. ガンマ特性が 2.4 の場合の処理

画像へのノイズ付与について

図1, 図2に示す通り伝送中の YCbCr 信号に対してガウシアンノイズを付与する。 比較検証のため、図1の経路と図2の経路とで付与するノイズは完全に同一なものとする。 平均・分散、Seed値を全て同一パラメータとすることで実現する。

結果

結論の表1の通り、ガンマ補正によりノイズが低階調~高階調で均一となることが分かった。 ガンマ補正が無い場合は低階調でノイズが非常に目立ち、暗部が多い絵では品位が非常に悪くなる。

なお、参考までに動画ファイルも用意した。ProRes422 HQ 形式のためダウンロードしてから再生すること。

考察というか感想

コードを書いているうちに、これは考えたら当たり前の事だと気づいた。 ガンマ補正の本質が「現実の輝度」を「知覚の輝度」への変換なのであれば、 ガンマ補正のある空間ではノイズは均一に知覚され、補正のない空間では不均一に知覚されて当然である。

ただ、こういう検証は楽しいので、また新しいネタを仕入れたらやってみたい。

参考文献

[1] コンポジゴク. ガンマについて. http://compojigoku.blog.fc2.com/blog-entry-23.html. (2019/02/09参照)

[2] Tim Borer. Non-linear Opto-Electrical Transfer Functions for High Dynamic Range Television(WHP283), p.2